外国人社員の帰国後に雇用代行の選択肢

日本の中小企業にとって外国人雇用は当たり前の時代です。技能実習制度から特定技能や、技人国在留資格による高度人材の採用で、製造現場や開発部門、国際営業業務など、中小企業の人材資源の中核をなすに至っています。
ここで考えなければならないのは、日本人社員や外国人社員を問わず、以前のような終身雇用の形で人材を確保し育てていくことは困難になっているという点です。しかも、日本人以上に外国人社員は日本で出稼ぎに来ている割合が高いのです。技能実習生などは最初から3年なり5年という期間が決まっているため、ずっと雇用し続けることができません。外国人社員は基本的に永住資格を持って日本で働いている方の数は少ないため定着率は一般的に低く、ある程度稼ぐことができたら、家族がいる地元の国へ帰国するか、日本で起業して独立するか、いずれにせよ企業にとっては人材の流出は頭の痛い問題です。
外国人社員を帰国後も継続的に活用するために現法を設立したい
技能実習制度が定着してきた数年前のころから、中小企業の多くから相談を受けたのが、「ベトナムに帰国した実習生のために現地で子会社を設立したい」というものでした。
中小企業にとってはベトナム人の技能実習生はもはや欠くことのできない人材でした。ある奈良県のメーカーを訪問したときのことです。その工場現場では18人の従業員が働いておられ、そのうち日本人は工場長と一人のベテラン社員一名だけで、あとの16人は全てベトナム人の実習生でした。
相談を受けたのは、ベトナム人実習生の中で素晴らしい能力を持っている社員がいて、その社員を何とかキープしたい。そのためにこちらで学校に行かせて技人国の在留資格に切り替えたいというものでした。技能実習制度は一定期間の実習計画に基づいて、本国へ技術移転を目指すという発展途上国の産業発展への貢献がそもそもの目的です。実習中に学校に行かせて技人国の高度人材の要件を取得して切り替えるというのは制度上不整合を起こすので無理な話です。
そこでその社長からは、優秀な実習生が帰国後も活用したいので、CAD/CAMの操作スキルを生かした業務を切り分けて、ベトナムに子会社を作って現地で本人を採用し、子会社に業務発注したいという話がありました。
それはあえて子会社を作らなくても、個人との間での業務委託も可能ではありますが、経費管理を日本から行うのも難しい課題ではあります。かようにこの会社以外の多くの中小企業の経営者から、せっかく3年かけて育てたベトナム人の実習生は、実際日本語もできるし実務経験も積んでいるのに、帰国後に就職先がないか全く経験を生かせない企業で働くのは勿体ない、何とか彼らのために仕事を分割してベトナムで子会社を設立したいという相談を受けたのです。
技能実習生のための海外子会社設立は経営が行き詰る
実際、ベトナムに多くの中小企業の子会社が設立されました。そこで技能実習生上がりの社員を幹部として採用し、最初はある程度順調に運営できていたところも、そのほとんどが2年はもたずに閉鎖されているところが多いのです。その要因としては3つに集約されます。
1.海外子会社をマネジメントするノウハウをほとんど持っていない
2.どんなに技能実習生として優秀であっても経営管理能力を有していない人材がほとんど
3.海外子会社の経営計画を十分に練られていないまま法人化する
それぞれの要因で細かい現象が多くあるのですが、要するに日本で新規の事業を興すぐらいの覚悟をもって海外法人設立をプロジェクト化しないまま、法人さえ作れば稼働するという甘い考えを持っておられる方が多いように思います。人、モノ、カネの経営管理体制と売上計画をきっちり立てて、海外経営の専門家を顧問として取り込んで進めないとほぼ間違いなく閉鎖撤退に追い込まれます。
帰国する外国人を雇用したいがために海外子会社を設立するのは悪手です。企業の成長発展のために、戦略的に製造拠点を海外で確保する手段として、海外子会社を設立するという考えが最も重要です。
帰国した外国人社員を雇用代行で確保する手法を検討
もちろん戦略的に海外で設備投資を行って、製造会社を子会社として設立するのはありです。しかしそれは戦略実践の目的であって、帰国実習生を子会社で雇用するのは手段です。しかし帰国実習生の雇用を目的とした子会社設立の検討は本末転倒しているのです。
実際子会社を設立するには、設立手続きに関する費用もさることながら、資本金や運転資金など多額の資金が必要です。経営管理の体制づくりも時間やノウハウが実務面で求められます。人事管理も大変です。
そこで、子会社を設立せずに帰国する実習生や、特定技能や技人国の資格で日本で働いていても故郷に戻りたい人材を活用する方法があります。
「雇用代行」サービスを提供する会社があります。雇用代行とは、あくまでそのサービス会社の社員として採用するものの、業務の指示命令は委託した日本の中小企業が海外社員のように使える形態になります。雇用代行サービス会社に管理費用を払い、給料や社会保険をそのサービス会社から本人に支給してもらう形で、業務委託契約を結ぶというやり方です。メリットは次のような点があげられます。
1.子会社を設立しなくても海外人材を自社社員のように業務委託で働いてもらえる
2.日本で実習生として働いて帰国した人材は日本企業のやり方を理解しているので使いやすい
3.直接個人に業務委託契約した場合には社会保険の対象とはならないので、雇用代行での社員であれば人事上の課題は解決する
4.IT業務や営業代理など売り買いを伴わない範囲で現地社員として機能する
一方、デメリットもありますので、現地で法人設立を伴わない事業の選択肢として十分検討していただければと思います。
1.雇用代行サービス会社には管理費用が月に数万円かかる
2.売上や利益は雇用代行サービス会社で計上することはできない
3.代行雇用した人材の人件費(給与・社会保険料)を管理費用にオンされるので固定費は結構な金額となる
4.減価償却のかからない範囲での事務機器等の購入立替は可能だが、設備投資は基本できない
その他、活動費に関する費用精算などは、現地の雇用代行サービス会社との取り決めが必要となりますが、雇用代行ありきではなく、外国人活用の一つの手段として、海外展開支援アドバイザーとの事前相談をお奨めします。