日産テクノベトナムの人材育成と輩出

2000年代初頭から、多くの日本企業がベトナムに海外生産拠点として進出していました。大企業から中小企業までそのほとんどの進出形態はいわゆる工場展開であり、人件費にメリットがある生産で、日本市場への持ち帰り輸出もしくは現地生産による日本企業向けB2Bか現地市場向け販売が中心でした。

当時は技術力も十分でなく、開発機能としては技術人材の確保も容易でないため、開発拠点としての進出は大企業にとっても時期尚早でした。ところが、早期段階から思い切って開発拠点として設立し、ベトナムでの技術人材の育成に貢献していた企業がありました。

日本企業の先駆けとして挙げられるのが、ハノイに設立された「日産オートモーティブテクノロジーベトナム社」(通称:日産テクノベトナム)です。

ベトナム北部に工業団地が整備され、多くの大企業が誘致されて進出したのが2005年以降ですが、日産テクノは日産の海外開発拠点として2001年に設立され、CAD,、CAE、他データ作成業務等の設計業務の受託事業を展開されてきました。

2001年当初は技術人材の採用も厳しかったと推察しますが、着々と事業を拡大されて、ベトナムの優秀な技術者を育て社会に輩出されてきました。もちろんベトナムにはハノイ工科大学などレベルの高い技術者を教育し、FPTソフトウェアといった大学まで設立して高度技術人材を育てるIT企業があり、技術発展を支える人材育成の基盤はありました。

しかし製造企業の事業と直結した技術人材を企業自身が育てるだけでなく、社会に輩出する役割をこの日産テクノは果たしてきたという点で大変尊敬しています。

日産テクノの技術人材輩出は日本企業の外国人活用に大きな貢献

日産テクノベトナムは2025年4月時点で従業員数は2786人です。今やサムソンなど韓国系企業の他、日本以外の外資系企業でも巨大なR&D拠点を構えており、日本企業のベトナムでの開発拠点展開は見劣りします。しかし日産テクノは24年にわたり開発拠点として事業展開してきたことから、年間3%程度の退職者がいると仮定しますと、年間数十名の技術者が退職、つまり社会に技術者として輩出しているのではないかと思われます。それが24年間の実績ですから、累計では200人から数百人レベル以上の技術人材が育成され社会で活躍していると推察できます。

これら輩出された人材はCAD、CAM等の設計開発に精通しているだけでなく、日本のものづくりや自動車製造のノウハウを実地で学び育ったのですから、卒業後の転職先でも体得したIT技術や自動車設計業務、日本の製造業にとっても大変有益な人材です。しかも多くが日本語に精通しています。

実際、私がベトナム経営塾の講師としてベトナム人経営者の育成に関わった10年間、日産テクノ出身者で起業された優秀な経営者との出会いが多くありました。

日産テクノOBは卒業後、ベトナムの新興の自動車製造会社やその部品会社に技術者として就職する他、自ら製造業や開発会社を起業したり、あるいは日本企業にベトナム人技術者として採用されたり、日本で外資として起業した方と多く出会うことが多いです。

昨今ベトナム人はじめ多くの外国人材が日本で高度人材として働いておられるわけですが、自動車関連業界に限って言えば、あちらこちらで日産テクノのOBが活躍されている場面に出会います。日本では日産テクノOB人材ネットワークによる人脈が全国規模で広がっています。

日産テクノが輩出した多くの人材は社会のあらゆるところで活躍しており、日本企業にとってもネットワークを有するベトナム人の技術人材として活用している意義は大変大きいです。

ただここで考えてほしいのは、日産テクノのような他の企業が育てた人材を採用することで外国人材活用を積極的に取り組んでいるという姿勢だけで良いのかという点です。特に大企業は他社が育成して輩出した人材を採用して喜んでいるだけでは、社会の責任を果たしていると言えないのではないでしょうか。

企業が人材を育てるのは当然自社の事業に資するためではありますが、残念にも結果として退職されたとしても、社会に人材を輩出する役割を果たしてこそ人材育成のCSR貢献につながるのではないでしょうか。企業の競争力の根幹はやはり人材の育成と社会貢献にあると、日産テクノの事業に一番共感と感銘を受けるところです。

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