ベトナムの輸出入構造の変化と日本の存在感低下

ベトナムの成長発展に日本企業のベトナム展開が貢献してきたという理解をしている方が多いと思います。しかし、ベトナムにおける日本企業のプレゼンスが急速に低下している事実を貿易統計から知ることができます。

私がベトナムに勤務していた2010年から2014年頃までは、日本からの投資がベトナムの経済発展にとって大きな比重を占めていました。当時の日本企業は低コスト生産を求め、ベトナム政府も工業団地を整備して日本企業の投資を誘致し、いわゆる持ち帰り生産で日本向け輸出がベトナム経済に多大な貢献をしていた時代でした。

ところがその後コロナ禍を経て、ベトナムの製造業も発達する一方で、中国リスク回避を含めて、日本以外からの投資が急増。中国からの輸入や投資を踏まえて米国向け輸出拠点化が加速していきました。この15年の変化は実に大きなものがあります。あまり多くの人が注目していませんが、実態として日本企業のベトナムにおけるプレゼンスが低下しているのではないかとの意識があり、UNCTAD貿易統計のデータを分析してみました。

実に驚愕の事実を目にしました。

ベトナムの国・地域別輸出金額の推移

冒頭のグラフを見ていただければわかりますが、2015年あたりからベトナムの輸出金額が急増しています。中でもアメリカ向け輸出が2018年以降突出して増えています。一方、中国向け輸出も増えていますが、コロナ以後の伸び率は低くなっています。

ところが日本向け輸出は相対的に横ばいです。

これからわかることは、ベトナムが対アメリカ、欧州、ASEANだけでなくその他地域を含めて、世界市場向けの輸出拠点化が進んでいるということであり、ベトナムにとっての日本の重要度、輸出貢献度は確実に低下しているということです。

アメリカ向け輸出増は、コロナの影響に加えて米中貿易戦争、中国の政治的リスクから、中国国内企業が海外に拠点シフトしていることなど、アメリカ向け迂回輸出拠点化しているということが考えられます。アメリカ政府もベトナムに対して迂回輸出には高関税をかけるとしていますが、まだ実際には適用されていないようです。

一方、日本向け輸出は減ってはいないのですが、ほとんど成長性がありません。これは一部ベトナム生産をベトナム国内市場やASEAN,欧州向け販売比率を増やしたとも考えられますが、確実に言えるのは日本国内向け持ち帰り生産が増えていないということです。

ベトナムの国・地域別輸入金額の推移

一方、輸入金額の推移を集計してみたところ、中国からの輸入が突出して増えています。元々ベトナムは生活関連製品の多くを中国からの輸入に依存していたのですが、ベトナムの工業化の進展とともに2017年頃から生産材、部品の輸入が急に増えたためと考えられます。これは多くの中国資本がベトナムへ輸出増を図ったことや生産拠点の移管を進めて、アメリカ向けの迂回輸出拠点化を進めたのが理由です。

また別の見方をすれば、ベトナムが製造業における原材料や中間財のサプライチェーンの分散拠点として機能が進んでいるともいえると思います。

ベトナム貿易構造の変化

輸出と輸入を分けてみるとわかりにくいのですが、合計値で輸出入バランスをグラフ化してみましたところ、迂回輸出の拠点化やサプライチェーンの結節点機能が進むことによって、米国向け輸出の増加によって、2018年から一気に貿易黒字化を達成していることがわかります。

一方、対日貿易だけの数字を追ってみますと、ベトナムにとってわずかに黒字なのですが、輸出も輸入も金額構成比が低下して伸びがほとんどありません。2010年頃の日本向け持ち帰り製造拠点としての位置づけからビジネスモデルを変革できていない日本企業は、概して動きが緩慢で世界的な動きからはズレが見られます。

ベトナムの成長発展に対する日本企業の貢献度合いが急速に低下

ベトナム全体にとって、最早「日本市場向け製造拠点」としての意義は急激に薄れてきている一方で、世界から見るとベトナムは中国に代わる「迂回・分散・分業拠点」として機能しており、世界に向けての製造拠点としてのプレゼンスが高まってきています。

つまりベトナムにとっての経済発展に資する重要市場は、既に米国・中国・欧州・アジアやその他に移ってきており、最早日本以外となっている事実をもっと直視するべきかと思われます。

この傾向は何もベトナムだけではないと思われますので、またUNCTADのデータを分析してタイやインドネシアなどの視点からも鳥瞰してみようと思います。

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